【2026年版】行政書士事務所の採算管理|粗利・時間単価で案件を選ぶ
業務効率化

【2026年版】行政書士事務所の採算管理|粗利・時間単価で案件を選ぶ

2026年7月19日21分で読める

この記事の結論

行政書士事務所の採算管理は、案件ごとに「粗利」と「時間単価」を出すことから始まります。粗利は報酬から外注費と実費を引いた額、時間単価は粗利を投下時間で割った額です。この2つを可視化すると、売上は大きいのに利益が残らない無採算案件を見極められます。業務効率化で同じ時間により多くの案件を回せば、時間単価そのものを引き上げられます。

「忙しいのに、なぜか手元にお金が残らない」。行政書士事務所を運営していると、こうした感覚に突き当たることがあります。受任件数は増えているのに利益が伸びないとき、原因は案件ごとの採算が見えていないことにあります。

採算管理とは、勘や売上総額ではなく、案件単位の粗利と時間単価で「どの仕事が事務所を支えているか」を数字で把握することです。この記事では、案件別に採算を出す手順、無採算案件の見極め方、業務効率化で時間単価を高める仕組みづくりまでを実務目線で整理します。

採算が見えない事務所の課題

採算が見えない事務所は、忙しいのに利益が残らない状態に陥りやすくなります。原因は、売上の合計だけを見て、案件ごとのコストと投下時間を把握していないことです。

たとえば報酬10万円の建設業許可申請でも、外注費や役所への往復、補正対応に40時間かかれば時間単価は2,500円です。一方、報酬5万円の内容証明作成を5時間で仕上げれば時間単価は1万円になります。売上の大きい案件が、必ずしも採算の良い案件とは限りません。

採算が見えないと、次の3つの問題が起こります。第一に、無採算案件に時間を奪われ、利益率の高い仕事に手が回らなくなります。第二に、値上げや受任見送りの判断ができません。第三に、繁忙期に人を増やすべきか、外注すべきかの投資判断もできません。

採算が見えない事務所で売上は増えても利益が残らない構造を示す図
採算が見えない事務所で売上は増えても利益が残らない構造を示す図

採算管理は、こうした「見えないコスト」を案件単位で見える化する作業です。まずは1件ずつ、報酬と投下時間を記録することから始めます。

案件別に粗利・時間単価を出す

採算の出発点は、案件ごとに粗利と時間単価を計算することです。用語と計算式を先に整理します。

指標計算式意味
粗利報酬 −(外注費 + 実費)案件で実際に手元に残る額
粗利率粗利 ÷ 報酬 × 100報酬に対する利益の割合
時間単価粗利 ÷ 投下時間1時間あたりに生む利益
投下時間相談・作成・申請・補正の合計移動や待機も含めた実働時間

ここで重要なのは、実費(登録免許税・証紙・郵送費)と外注費(提携司法書士への登記依頼料など)を必ず差し引くことです。これらは預り金的な性質を持ち、利益ではありません。粗利に含めると採算を実態より良く見せてしまいます。

なお、登記そのものは司法書士、税務申告は税理士、雇用関係助成金や労務手続は社会保険労務士の独占業務です。提携先へ支払う外注費は事務所のコストとして粗利から差し引きます。

行政書士HUBの設計・運用に基づく自社調べの目安として、案件タイプ別に時間単価を算出するフレームを早見表で示します。報酬・実費・投下時間を入れれば、どの案件が事務所を支えているかが一目で分かります。

案件タイプ(例)報酬実費・外注費投下時間時間単価の目安
内容証明・契約書作成5万円0.5万円5時間約9,000円
自動車登録・車庫証明1.5万円0.3万円2時間約6,000円
建設業許可(新規)12万円2万円30時間約3,300円
在留資格変更8万円0.4万円12時間約6,300円

※上記は行政書士HUBの運用知見に基づく試算フレームであり、報酬額や工数は事務所・地域・案件難易度により異なります。自所の実数を当てはめて使ってください。

案件タイプ別に報酬と投下時間から時間単価を算出する早見表のイメージ図
案件タイプ別に報酬と投下時間から時間単価を算出する早見表のイメージ図

この表を自所の数字で埋めるだけで、「売上は大きいが時間単価が低い案件」と「売上は小さいが時間単価が高い案件」が分離できます。

無採算案件を見極める

粗利と時間単価が見えると、無採算案件の輪郭がはっきりします。無採算案件とは、時間単価が事務所の損益分岐点を下回る案件のことです。

損益分岐点となる時間単価は、月の固定費を稼働可能時間で割って求めます。たとえば家賃・人件費・システム費などの固定費が月60万円、自分が実務に充てられる時間が月120時間なら、最低でも時間単価5,000円を超えないと固定費すら回収できません。

この基準で先ほどの早見表を見ると、時間単価3,300円の建設業許可は、件数を重ねるほど採算を圧迫する可能性があります。判断は次の3つで行います。

  • 値上げできるか:専門性や付加価値で報酬を上げられる余地があるか
  • 効率化できるか:定型化・テンプレート化で投下時間を削れるか
  • 撤退すべきか:上記が難しければ、受任を絞るか他案件に資源を振り向ける

ただし、無採算案件を機械的に切るのは早計です。建設業許可の新規申請は、その後の決算変更届・5年ごとの更新・業種追加といった継続案件につながります。単発の時間単価が低くても、顧問契約や反復受任まで含めた生涯粗利で見れば採算が合うことは少なくありません。

単発の時間単価と更新・顧問まで含めた生涯粗利を比較して判断する図
単発の時間単価と更新・顧問まで含めた生涯粗利を比較して判断する図

つまり無採算案件の見極めは、「1件の数字」と「顧客との取引全体の数字」の両面で行うのが実務的です。顧客情報と案件履歴を紐づけて管理しておくと、この判断がしやすくなります。顧客データの整備については、顧客情報管理の課題と解決法も参考になります。

業務効率化で時間単価を上げる

時間単価を上げる方法は2つです。報酬を上げるか、投下時間を減らすか。このうち、すべての案件に効くのが業務効率化による投下時間の削減です。同じ粗利を生むのにかかる時間が短くなれば、時間単価は自動的に上がります。

具体的には、次の3点が効果を出しやすい領域です。

効率化の対象打ち手時間単価への効果
書類作成ひな形・定型文の再利用作成時間を大幅短縮
顧客対応進捗の共有・問い合わせ削減確認・連絡の往復を削減
期限管理許認可期限の自動リマインド補正・再申請の手戻りを防止

たとえば建設業許可の更新は、期限を1日でも過ぎると新規扱いになり、報酬も投下時間も大きく膨らみます。期限管理を仕組み化するだけで、こうした無駄な工数の発生を防げます。行政書士HUBは許認可の種別を問わず期限を登録でき、自動リマインドで更新の見落としを防ぎます。

効率化で生まれた時間を、時間単価の高い案件や新規開拓に振り向ければ、事務所全体の採算は底上げされます。効率化の全体像は行政書士の業務効率化ガイドで詳しく解説しています。

業務効率化で投下時間を削減し時間単価が上がる流れを示す図
業務効率化で投下時間を削減し時間単価が上がる流れを示す図

ツール導入そのものが目的化しないよう、まずは「最も時間を奪っている工程」を1つ特定し、そこから効率化するのが定石です。

数字を継続的に管理する仕組み

採算管理は一度計算して終わりではありません。案件は毎月発生し、報酬相場や固定費も変わります。継続的に数字を更新する仕組みがなければ、採算はすぐに見えなくなります。

続けるコツは、記録を業務フローに組み込むことです。案件を受任した時点で報酬・想定工数を登録し、完了時に実際の投下時間を入れる。この2ステップを習慣化すれば、月末に集計するだけで案件別・顧客別の採算が把握できます。

Excelでも始められますが、案件数が増えると入力と集計が負担になり、更新が止まりがちです。顧客情報・案件進捗・許認可期限・請求までを1か所で管理できると、採算データが自然に蓄積されます。クラウド型の業務管理システムを使えば、Mac・スマホからでも記録でき、入力の手間を最小化できます。デジタル化の進め方は行政書士のDX実践で具体的に紹介しています。

受任時と完了時の2ステップ入力で採算データが蓄積される仕組みの図
受任時と完了時の2ステップ入力で採算データが蓄積される仕組みの図

数字が継続的に貯まれば、値上げ交渉の根拠、採用や外注の投資判断、得意分野への集中といった経営判断を、勘ではなくデータで下せるようになります。

まとめ

行政書士事務所の採算管理の要点を整理します。

  • 案件ごとに粗利(報酬−外注費−実費)と時間単価(粗利÷投下時間)を出す
  • 時間単価が損益分岐点を下回る案件が無採算案件。ただし更新・顧問まで含めた生涯粗利で判断する
  • 業務効率化で投下時間を削れば、すべての案件の時間単価が上がる
  • 記録を業務フローに組み込み、案件別・顧客別の採算を継続的に蓄積する

採算が見えれば、忙しさと利益が一致しない状態から抜け出せます。まずは直近の数件を、粗利と時間単価で計算してみることから始めてください。


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よくある質問

Q1. 行政書士の時間単価はどう出しますか?

A. 案件の粗利(報酬から外注費と実費を引いた額)を、その案件にかけた投下時間で割って算出します。投下時間には相談・書類作成・申請・補正対応に加え、移動や待機の時間も含めるのが実態に近い計算です。たとえば粗利6万円の案件に12時間かければ、時間単価は5,000円です。

Q2. 無採算案件はどう見極めますか?

A. 時間単価が事務所の損益分岐点(固定費÷稼働可能時間)を下回る案件が無採算の目安です。ただし、建設業許可のように更新・決算変更届・顧問契約へつながる案件は、単発では低くても生涯粗利で見れば採算が合うことがあります。1件の数字と取引全体の数字の両面で判断します。

Q3. 行政書士の粗利率の目安はありますか?

A. 報酬・外注費・実費の構成は案件や地域で大きく異なるため、一律の目安を断定するのは適切ではありません。重要なのは他所の平均と比べることより、自所の案件タイプ別に粗利率を出し、相対的に高い案件・低い案件を把握することです。実費や外注費の比率が高い案件ほど粗利率は下がります。

Q4. 採算管理を続けるコツは何ですか?

A. 記録を業務フローに組み込むことです。受任時に報酬と想定工数を登録し、完了時に実際の投下時間を入れる2ステップを習慣化すれば、月末の集計だけで採算が把握できます。Excelで始めて構いませんが、案件数が増えたら顧客・案件・期限・請求を一元管理できるシステムに移すと、入力負担を抑えて継続しやすくなります。

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